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福井家庭裁判所 昭和38年(少ハ)6号 決定

少年 B(昭一九・五・一九生)

主文

少年を満二一歳に達するまで特別少年院に戻して収容する。

理由

(申請の要旨)

少年は昭和三六年六月二七日福井家庭裁判所において、窃盗保護事件により中等少年院送致決定を受けて明徳少女苑に収容され、昭和三七年八月二九日中部地方更生保護委員会第一部の仮退院許可決定により同年九月六日明徳少女苑を仮退院し、父親の住居地である前記本籍地に帰住し、福井保護観察所の保護観察を受けていたものであるが、仮退院に際して犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の一般遵守事項並びに同法第三一条第三項に基き上記委員会第一部の定めた特別遵守事項(一)一定の住居に居住し、正業に従事すること、(二)犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと、(三)住居を転じ又は長期の旅行をするときは、あらかじめ保護観察を行なう者の許可を求めること、(四)一〇〇粁以上ある地に旅行するとき、または三日を越えて住居をあけるときは、前もつて受持者の許可を受けること、(五)家出しないこと、(六)不良交友を断ち、みだりに男と関係しないこと、(七)これからの仕事のこと、そのほか何でも保護者や保護司によく相談すること等を遵守せず、仮退院後日ならずして従前の関係者(不良徒輩)と結びつき、家出・放浪(長期旅行)・無断頻回転職・自殺未遂等の問題行動を繰返し、資質的にも知能低格(魯鈍級)で興奮性・衝動性が強く羞恥心に乏しい性格であるから、保護者の保護能力に期待できない現段階においては、生活指導・情操教育をさらに徹底すると共に、環境調整を図るため、少年を施設に戻して収容し矯正教育を実施した上、社会に復帰せしめるのが相当である。

(当裁判所の判断)

少年の福井保護観察所保護観察官加古善広に対する供述を録取した同観察官作成の調査書、仮退院許可決定書抄本、福井少年鑑別所作成の昭和三八年一一月二六日付鑑別結果通知書、当家庭裁判所調査官杉本厚作成の意見書、並びに当裁判所に対する少年及び参考人の各供述を総合すると、

(一)  少年は昭和三六年六月二七日当裁判所において中等少年院送致決定を受けて、明徳少女苑に収容され、昭和三七年九月六日上記申請の要旨記載の各事項の遵守を誓約して同少女苑を仮退院し、上記本籍地に帰住して福井保護観察所の保護観察を受けることとなつたが、同年九月二八日外出中、従前関係のあつた福○新○に声をかけられるや、家出を企て父親に発見されて当日は帰宅したが、翌朝無断家出して、前記福○新○と共に約一〇日間所在をくらまし

(二)  同年一〇月四日福井保護観察所の呼出指定日に出頭せず

(三)  同月九日から福井県婦人相談所に入所したが、無断外泊を繰返し、同月二八日○○駅で発見されて同相談所に連戻され、担当保護司大川キヨノより説諭されたのに拘らず、その後も所内規則に従わず絶えず同僚生と口論をなし、怠惰のため所内における内職を嫌い昭和三八年二月六日○○市○○町吉○商店に就職したが、僅か一週間で嫌になつて帰所し、同月二〇日同相談所の職員を驚かすべく睡眠薬を服用して病院の手当を受け、同月二二日同相談所を退所の処置を受けて帰宅の途中、帰宅を嫌つて逃走所在をくらまし

(四)  同年三月二九日○○市○○町の○○食堂に無断就職したが、間もなく同市□□町越○食堂に就職し、同年八月頃同食堂の来客某(三〇年位)と二回に亘つて外泊売春をなし、その代金約六、〇〇〇円を持つて名古屋市に赴き同市内において約一週間徒遊し

(五)  同年九月初頃○○市××の諏○食堂に無断転職して約一週間住込んだが、同月一〇日同市のバー「あ○つ○」方に就職し、さらに同月二四日上記諏○食堂の店主黒○某に連れ戻されて就労中、同年一〇月初頃同食堂内において、少年の情交関係のことから不良徒輩間の喧嘩が起きたため、同市○×町の○中○子こと○道○方に寄寓徒食し

(六)  同年一〇月七月睡眠薬自殺を企てたため福井保護観察所に同行されたが、翌八日再び○道○方に連れ戻される

に至った

ことが認められ、少年が前記遵守事項に違背したことが明らかである。

上記認定事実に、少年の資質(知能は魯鈍重症級にして脳性小児マヒ後遺症が認められる精神薄弱であり、性格的には興奮性、衝動性等に偏りを示し依存的、固執的で性的関心が強く、殊に道徳・情操観念の欠如が著しい)・年齢・環境(いわゆるやくざとの結合・不良な家庭環境)・保護者の保護能力の程度その他諸般の情況を合せ考慮すれば、少年に対しては満二一歳に達するまで特別少年院に戻して収容する必要があると認められるので、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第五五条、第三七条第一項、少年院法第二条により主文のとおり決定する。

(裁判官 高津建蔵)

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